死刑制度廃止が全世界のトレンド 死刑存置国の立場を続ける日本の現状
日本国では現在死刑制度が存置(維持)されています。
内閣府が2015年に行った調査では、死刑存続を支持する人が8割を超えるという結果でした。
調査結果を見る限り、国民一般認識として、死刑は「あって当たり前の制度」と認識されているようです。
しかし、日本の常識も世界に目を移すと、まったく常識ではなくなるようです。
衝撃的な死刑存置国のリスト
現時点での世界での死刑制度の現状は以下のようになっています。
死刑廃止国・存置国(2016年12月末現在)
- すべての犯罪に対して廃止:104カ国
- 通常犯罪のみ廃止:7カ国
- 事実上廃止:30カ国
- (法律上・事実上廃止:141カ国)
- 存置:57カ国
事実上廃止した国は、死刑制度自体はあっても過去10年間に死刑執行していない、といった基準で決められます。
上記の数字は刻々と変化していますが、全体の流れとして、死刑存置国の数はどんどん減少しているのです。
死刑存置国リスト(現在は下記リストよりはもっと減っている)
アフガニスタン、アンティグアバーブーダ、バハマ、バーレーン、バングラデシュ、バルバドス、ベラルーシ、ベリーズ、ボツワナ、ブルンジ、カメルーン、チャド、中国、コモロ、コンゴ民主共和国、キューバ、ドミニカ、エジプト、赤道ギニア、エチオピア、グアテマラ、ギニア、ガイアナ、インド、インドネシア、イラン、イラク、ジャマイカ、日本、ヨルダン、カザフスタン、朝鮮民主主義人民共和国、クウェート、レバノン、レソト、リビア、マレーシア、モンゴル、ナイジェリア、オマーン、パキスタン、パレスチナ自治政府、カタール、セントクリストファーネビス、セントルシア、セントビンセント・グレナディーン、サウジアラビア、シエラレオネ、シンガポール、ソマリア、スーダン、シリア、台湾、タジキスタン、タイ、トリニダード・トバゴ、ウガンダ、アラブ首長国連邦、米国、ベトナム、イエメン、ジンバブエ
死刑存置国の大部分がアジア、中東、アフリカ地域で占められ、また、悪名高い独裁国家が数多く含まれています。
これらのリスト国の中で、あなたが海外旅行で行きたい国がいくつあるのか、を基準に考えるとわかりやすいのではないでしょうか。
民主主義国のリーダー、アメリカも死刑存置だから、先進国の中で日本だけというわけじゃないという意見もありますが
アメリカは2017年現在までに19州が死刑廃止となっていて、少しずつですが死刑廃止州が年を追って増えている状況です。
さらに、先進国の一つの基準であるOECD加盟国で見ると、一国全体で死刑制度を維持、執行を継続しているのは日本国だけなのです。
私自身は正直情けない気持ちになりましたね。
死刑制度において、日本が世界の潮流から取り残されていることは漠然と知ってはいましたが、具体的な形のデータを突き付けられると、ガッカリというか、ちょっと落ち込んでしまいました。
死刑廃止は国際人権規約に含まれる条文のひとつ
日本では死刑廃止の意見に対して「被害者や家族の人権がないがしろにするのか!」という反論がよく聞かれますよね。
しかし、それは国際社会で問題にされる「人権」とは大きくずれた考え方なのです。
国連の場で定められた人権に関する多国間の条約として、国際人権規約というものがあります。
第二次世界大戦後、国連では多国間のファシズムなどの全体主義国家などが人権を蹂躙したことが悲惨な戦争につながったという反省から「世界人権宣言」がつくられ、それを元に人権についての多くの多国間条約が生まれてきました。
「強大な権力を持つ国家から、弱い立場の人間の権利をどうやって守るのか」
国際社会で「人権」というときは、通常はこの意味になります。
そして、多国間人権条約の中で、最も重要で核になるものが「国際人権規約」になります。
死刑廃止条約とは、この国際人権規約の中の第2選択議定書にあたるものです。
国連から日本が死刑廃止するよう勧告を受けたことに対して、「そんなの日本の勝手だろ、内政干渉だ!」などと思う人もいるかもしれませんが、日本政府は国際人権規約を大筋で批准している立場なので、留保している死刑廃止条約のことで国連からプレッシャーを掛けられるのは当然のことなのです。
このような国連からの指導は内政干渉と考えるべきでない、というのは、当の日本の外務省のホームページにもハッキリ明記してあります。
それにもかかわらず、日本政府は死刑廃止条約だけでなく、国際人権規約のその他多くの条約も承認を拒否・留保しています。
国際人権規約の出発点となった「全体主義国家の人権抑圧」は、まさに戦前の日本そのものを指しているのに、その日本が様々な言い訳をして、人権条約の受け入れを拒否し続けているのは、何とも不合理な話ではないでしょうか。
死刑廃止条約以外の人権関連の事案でも日本は吊し上げを食らっている
日本が国連から批判、勧告を受けている人権問題は、死刑制度だけではありません。
例えば、国連人権委員会の委員から指摘、批判を受けているのは、次のような内容です。
死刑廃止に向けて、政府が行うべきとされている国民への啓蒙活動など働きかけが皆無
警察の密室での取り調べを録画する(全面可視化)制度がない
国内人権機関を設置していない
個人通報制度受け入れの拒否
第二次大戦中の軍事的性奴隷としての慰安婦問題
外国人技能実習生に対する不当搾取
入管管理局の外国人に対する不当な扱い
戦争放棄を謳った憲法を持つ「平和国家日本」とは異質な別の顔が見えてくるようです。
これらの人権問題で共通の問題として浮かび上がるのが、弱い立場の個人を国家がどう処遇するのかという点になります。
死刑囚はたしかに犯罪者ですが、刑務所で管理されている状態においては、国家によって自由を奪われた弱い個人でもあるわけです。
日本政府の姿勢は弱い立場の個人を守るどころか、むしろ積極的に抹殺しようしているようにさえ見えてきます。
日本国内では、死刑制度を維持しているのは日本国民の誇るべき美点であるという論調があるようですが、国連ではそんな主張はまったく通用しません。
国連総会や人権委員会において、日本は死刑制度も含めて受け入れを拒否している数多くの人権条約をさっさと批准しろと非難され続けているのが現実なのです。
日本は国際紛争について武力ではなく、話し合いで解決するという立場の国ですから、国連で決まったことを無視する国になっていいはずがありません。
内閣府の死刑制度に関する世論調査
日本政府が国連に対して死刑制度を廃止にしない最大の根拠にしているのが、内閣府による世論調査の結果です。
マスコミは都合の良い部分だけを切り取って死刑賛成が8割超報道しているので、ニュースだけ聞けば、「日本人は死刑制度を当然のことと受け入れているんだな」ということになるのですが、その調査内容を見ると、恣意的な部分が実に多いことが判明しました。
まず、死刑制度に賛成か反対かという設問ですが、下記のようになっています。
(ア) どんな場合でも死刑は廃止すべきである
(イ) 場合によっては死刑もやむを得ない
「どんな場合でも」よりも「場合によって」で修飾されたほうが、はるかに選びやすくなるのは、心理学を持ち出すまでもなく明らかですね。
国家がこんな子供じみたやり方をしているのは情けない限りですが、この世論調査が国連に対して日本が死刑存続している最大の根拠になっているため、死刑賛成を何とかして圧倒的数字にしたいという政府の意図がむきだしになってしまっています。
昭和55年の内閣府の調査では「あなたは重い罪を犯した人でもなるべく死刑にしない方がいいですか。そうは思いませんか」という質問でしたが、結果は「なるべく死刑にしない方がいい」が25.3%、「そうは思わない」41.7%でした。
質問の仕方しだいで、結果がガラリと変わるというという知った上で、日本政府が都合のいい結果を導き出すための悪知恵を絞っている光景が目に浮かびます。
「場合によっては死刑もやむを得ない」に賛成の理由として、「被害者やその家族の心情を顧みて」という内容がよく取り上げられます。
あたかも、調査を受けた国民から自発的に出てきた言葉のように取り扱われていますが、実際には内閣府調査が恣意的に用意した選択肢の一つなのです(理由を聞いたところという表現はおかしいですね)。
調査にあたっては、調査員から次のような選択肢が与えられ、回答者が選ぶ形になっています。
(ア)凶悪な犯罪は命をもって償うべきだ
(イ)死刑を廃止すれば,被害を受けた人やその家族の気持ちがおさまらない
(ウ)死刑を廃止すれば,凶悪な犯罪が増える
(エ)凶悪な犯罪を犯す人は生かしておくと,また同じような犯罪を犯す危険がある
そして、次の2つの質問の結果が衝撃的です。
終身刑が新たに導入されるならば,死刑を廃止する方がよいと思いますか?それとも,終身刑が導入されても,死刑を廃止しない方がよいと思いますか。
死刑は廃止する方がよい 37.7%
廃止しない方がよい 51.5%
死刑制度に関して,「死刑もやむを得ない」と答えた者に,将来も死刑を廃止しない方がよいと思うか,それとも,状況が変われば,将来的には,死刑を廃止してもよいと思うか聞いたところ
将来も死刑を廃止しない 57.5%
死刑を廃止してもよい 40.5%
いかがでしょうか?
この結果を見る限り、私はもはや、存置と廃止の数字が拮抗しているように思えてしまうのですが。
前提を変えれば、数字はまったく違ってくるわけですから、マスコミは一部分だけを取り上げて、「日本国民は死刑賛成が圧倒的多数」という報道をするのはやめるべきですね。
さらに、この調査は調査員による個別面接聴取法となっています。
唐突に訪問して誘導的な質問をすることで、さらに自分たちの都合のよい結果にしてやろうという意図が透けて見えます。
内閣府が行っている死刑制度についての世論調査は、「死刑制度維持賛成の数字を最大限上げる」ことを目的にしているのは明らかです。
国連は人権条約批准国に対し、死刑制度は国家の人権侵害に相当する刑罰であることを自国民に啓蒙していくよう指導しています。
しかし、日本政府がやっていることは、まったくの正反対ですよね。
国連から勧告指導を受けている事実は無視して、聞かれてもいない被害者家族の感情を設問に入れ込んで、調査結果を誘導しようと躍起になっています。
死刑を廃止したくないのは日本政府であるという事実
内閣府の調査結果を分析して見えてくるのは、日本人は大手メディアで喧伝されるほど、死刑制度に絶対賛成ではないということです。
死刑制度というものは、ほとんどの日本人にとって、自分たちの生活には直接関係ない話なので、まあ現状維持でいいんじゃないの?程度の認識になってしまうのだろうと考えられます。
問題はここまでバイアスむき出しの世論調査で圧倒的賛成の数字を作り出し、これを材料に死刑制度廃止拒否を続けている日本政府の必死な態度です。
なぜここまで必死なのか。
私の分析は次の通りです。
日本政府は国民の人権をこれ以上拡大したくないと考えているからです。
その動機としては、国連が死刑を人権問題の一つとして扱っている流れを見れば理解できます。
権力を持っている側からすると、民主主義というのは、国民の顔色をいちいち伺わないといけない非常に疲れる制度と言えます。
自民党の改憲草案では、基本的人権に関する条文の第97条が削除されていますが、恐らく国民の人権は縮小に持ってきたい政府の願望によるものでしょう。
また、憲法第36条「公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる」という条文があります。
死刑も身体刑なのだから憲法違反ではないかということになりそうですが、これについても、自民改憲草案では「絶対に」の部分を除去しています。
憲法まで整えて死刑制度を存続させたいという日本政府の執念が伝わってきますね。